今回は、書店が抱える4つの問題について考察します。
ご存じの通り、日本の本屋さんは年々減少しています。特に、小型書店の減少は顕著です。
・需要の問題(娯楽の種類が増えている)
・人口の減少
・都市への人の移動
・経営者の高齢化
・ECサイトの拡大
など、様々な理由があります。とはいえ、これらの問題は書店だけの問題では無く、多くの小売業で起こっている問題です。
書店だけに着目すると、書店ならでは4つの課題が見つかります。
①再販制度(定価制)
②委託制度(返品自由)
③利益率が低い
④図書館
今回は、そんな書店の抱える問題について、ご紹介します。
ネット通販での買い物は非常に便利ですが、それでも書店がある事には価値があります。
新しい本との出会いは、実店舗の方が有利だからです。
具体的に、どうすれば書店が抱える問題を解決できるかはわかりません。ですが、必ず解決すべき問題だと私は思っています。
現時点で思いつく解決策はこちらです。(書店ごとのおすすめ本整理/コンシェルジュ化)
では、さっそく4つの問題についてご紹介します。
書店が抱える4つの問題
書店だけが抱えている。と言ってもいい課題についてご紹介します。
書店は独特の文化や風習があり、一般的な小売業とは違う苦労や特徴があるようです。
①再販制度(定価制)
基本的に、本の割引はありません。まれに、売れ残りの本がバーゲン本として販売されていますが、レアケースです。
どうしても売れなくて、裁断(廃棄する)本を特例的に割引して販売しています。
基本的には再販制度という定価販売のシステムがあり、本の割引も値上げも出来ません。
つまり、どの書店でも本の価格を操作することができません。
再販制度のメリットとは
再販制度のメリットはこちら。※日本書籍出版協会より。(クリックで開きます。)
①本の種類が保てる
②本の内容が偏らない
③価格が安定する
④遠隔地の本の価格が抑えられる
⑤町の本屋が減る
本の定価販売が無くなると、市場の原理でこのようになります。⇒価格のバラつき
・売れる本:高く売れるため価格が上がる
・売れない本:安く売る必要がある
つまり、供給量はこうなります。⇒本の種類が減る
・売れる本:需要が多いので、たくさん出版される
・売れない本:儲からないので、出版数が減る
さらに、輸送費や販売量の観点で、価格が変動します。⇒場所によって価格が違う
・都会:売れる+供給ラインが出来ているので価格が安い(競争も多いので)
・田舎:売れない+輸送費が高いので、価格が高い(ほぼ独占市場になる)
これらの問題により、本を買うときに、実店舗で買う人は減ります。莫大な供給量をほこる、ネット通販で本が買われるようになります。
つまり、書店や出版社を守ることによって、幅広く本が出版される環境が整えられています。
このシステム単体では、出版業界にも消費者にも優れたシステムです。
再販制度のデメリットとは
では、そんな再販制度のデメリットとはなんでしょうか。基本的には、良いシステムに思えますが、課題もあります。
①経済市場原理に合わない
②本の種類が多くなりすぎる
①経済市場原理に合わない
まずは、経済学的にはおかしいことをしています。アダム・スミスが提唱したように「神の見えざる手」によって、価格は需要と共有が一致する点に移動します。
ベストセラーもほとんど売れていない本も、価格がほぼ同じなのは、本当はおかしいはずです。
価格とは、ニーズの量や付加価値によって決定されるのが基本です。
つまり、市場原理を人の手で無理やりゆがめています。とはいえ、出版業界の健全性を考えると、デメリットよりはメリットの方が多いかもしれません。
②本の種類が多くなりすぎる
出版業界が守られているため、本の種類が非常に多いです。
日本では、毎日200冊の本が出版されている。と言われています。もちろん、多くの本が出回ることは、メリットがあります。
しかし、この後ご紹介する「委託制度」もあり、書店に対してはデメリットが大きくなっているように感じます。
②委託制度(返品自由)
委託制度とは、本を仕入れて売れ残った分を満額払いで返品できる制度です。
しかし、再販価格制度+委託制度は良いスパイラルを産んでいない可能性があります。
・返品数が多くなりすぎる
・管理が大変
・利益率が下がる
・書店の負担が増える
また、あくまで返品なので10冊仕入れた場合は、返品するまで10冊分の購入費が加算されます。
5冊しか売れない場合でも、一時的に10冊分の仕入れ費用が必要になります。
返品数が多くなりすぎる
まずは、出版される本の数が多すぎるため、返品数が多くなりすぎることです。
売れない本でも、仕入れておけば、もしかしたら売れるかもしれません。そのため、書店としては「とりあえず仕入れる」インセンティブがあります。
ですが、返品には「人の作業費」「会計処理」「輸送費」などが発生します。結果的に、出版社や書店の利益を圧迫しています。
管理が大変
仕入れと返品が多いということは、本の管理にかかる時間が増えます。そのため、書店員さんの仕事量が増えます。
さらに、本の数が多いと書店員さんが「どの本がおすすめか」「この本がどこにあるか」などがわかりません。
書店の生き残りには、コンシェルジュ化が必要だと思っています。つまり、書店員さんが、顧客に対して本のおすすめができるシステムです。
しかし、現時点では書店の管理が大変過ぎて、そこまで手が回っていません。
利益率が下がる
返品数が多くなりすぎる結果、利益率が下がります。
10冊の本を売るために、15冊の本を仕入れ、返品していては無駄な費用が掛かりすぎます。
とはいえ、本を買う時に「下の方から買う」傾向もあるので、一概に否定はできないのが現状です。※一番上の本は誰かが立ち読みしているため。
だれしも、多くの人が立ち読みした本を買いたいとは思えないからです。
書店の負担が増える
これまでの理由によって、書店の負担は非常に多いです。
・人件費がかさむ
・書店ならではの魅力を打ち出せない(時間が足りない)
これらによって、書店の魅力を上げることが難しくなっています。
・A書店
・B書店
2つの書店があった時に「近いかどうか」しか差別化できないようでは、ネット通販で買うほうが便利です。
各書店ならではの魅力が無い場合は、ECサイトの方が便利です。
③利益率が低い
本の原価は約80%程度とのことです。つまり、利益率が低いため、万引きのダメージが非常に多いです。
小さな書店なら、なおさらインパクトは大きいです。
ざっくり言えば、5冊の本を売っても、1冊万引きされれば利益は0です。さらに、管理の費用も発生しているため、赤字になります。
書店を経営して、儲けることは非常に難しいです。結果的に、書店の減少が続く可能性が高いです。
④図書館
非常に便利な図書館ですが、図書館では出版社にほとんどお金が入りません。
一冊の本を図書館に販売し、100回貸出された場合は99冊分の売り上げが減ることと同じです。
もちろん、図書館では借りるけど買うつもりの無い人もいるので、単純計算は出来ません。
さらに、図書館で読んでよかった本を買う。という人もいるので、一概にデメリットだけではありません。
とはいえ、図書館で無料で借りられるシステムには改善の余地があります。
こんなシステムが必要かもしれません。
・月5冊以上利用する場合は年会費が必要
・所得や家族構成によって年会費は前後する
・年会費分は、貸出数に応じて出版社に還元
公共の書籍サブスクリプションサービスを、図書館が運用することで、出版社の利益が守られることが期待できます。
現に、Amazonプライムリーディングでは、読まれたページ数によって、出版社にお金が入るようになってるケースもあるようです。
このようなシステムをつくることで、図書館は読者にも出版社にも優しいシステムになれます。
本が売れても意味が無い理由とは
これまでご紹介してきたことを振り返ると、本が売れても意味が無い理由が整理できます。
・利益率が低い
・返品費用が高い
・万引きが与えるインパクトが大きい
これらの理由によって、せっかく本が売れても儲からない可能性があります。
本を売るため、大量の本を仕入れて返品しています。さらに、万引きなどによって利益が削られれば書店がやっていけなくなるのもうなづけます。
書店が抱える4つの問題。本が売れても意味が無い理由【まとめ】
今回は、書店が抱える4つの問題についてご紹介しました。
個人がどうにかできる問題では無いかもしれません。書店も出版社の人も様々なアイデアを出して、問題解決に取り組んでいます。
また、これまでのシステムは、日本の書籍文化を守ってきたことは否定できません。
それでも、一人一人が問題を認識して考えることで、より良いやり方が見つかる可能性があるのは事実です。
読書好きとしては、より出版業界が盛り上がることを期待したいです。