今回は、ヤバい経済学「増補改訂版」の書評です。作者はスティーブン・レビットさんと、スティーブン・ダフナーさん。
最初に結論。「インセンティブがどれだけ人を動かせるかわかる本」です。
「経済学って難しそうだし、つまらない。」
「ヤバい○○って、タイトル詐欺でしょ?」
そう思う人もいるかと思いますが、間違いなくヤバい経済学は読む価値のある本です。インセンティブ(誘因)とは、人の心を動かす"てこ"です。
かつてアルキメデスはこう言いました。
「私に支点を与えよ。そしたら地球すら動かせる。」
物理学の「てこ」も、経済学の「てこ(インセンティブ)」も、使い方次第では大きな影響力があります。
力士の八百長も突き詰めれば、インセンティブ(経済学的なてこ)が理由です。
そんなインセンティブについて、実際の出来事をテーマに深く知れる。それがヤバい経済学です。
- ヤバい経済学がおすすめな人
- ヤバい経済学を読んでわかること
- ヤバい経済学の注意点
- ヤバい経済学の目次
- 第一章の力士のインセンティブを深堀り
- 「ヤバい経済学 書評」インセンティブの魔力を痛感出来る「まとめ」
ヤバい経済学がおすすめな人
ヤバい経済学がおすすめできるのはこんな人です。
・経済学の面白い部分だけ知りたい
・世の中を動かす力学を知りたい
・信憑性のある、データに裏づく本を読みたい
こんなニーズの人におすすめです。経済学がテーマの本で、ここまでわかりやすく、エンタメ性のある本は少ないと思います。
ヤバい経済学を読んでわかること
ヤバい経済学を読んでわかるのは、インセンティブの魔力です。
経済学では、インセンティブという単語は良く出てきます。日本語にすると誘因ですが、具体的にはこんなものをインセンティブと呼びます。
・営業マンの成果報酬
・ガラス瓶を返すと10円返ってくる
・ボランティア活動で、人から褒められる
インセンティブとは、人を動かす力です。よく勘違いされるのは、インセンティブ=金銭報酬。という考え方です。
しかし、インセンティブとは
・お金
・名誉
・地位
・道徳(自分を良い人だと思えるか)
など、多岐にわたります。つまり、人が何かを行動する時、必ずインセンティブが関係している。と言えます。
ヤバい経済学の注意点
ヤバい経済学の注意点は2つあります。
・アメリカの本なので、具体例がわかりにくい時がある
・内容が過激
「ヤバい」というくらいなので、少し過激というか、センシティブな内容についても書かれています。
具体的には「中絶」や「犯罪」など。苦手な人は、無理に読む必要は無いでしょう。
また、アメリカの本なので、具体例がアメリカです。全ての翻訳本共通の欠点ですが、気になる人はいると思います。
ここからは、具体的に、ヤバい経済学で「興味深い」と思ったところをご紹介していきます。
ヤバい経済学の目次
まずは、目次紹介。大きく6つのテーマで進みます。
第一章:学校の先生と相撲の力士、どこがおんなじ
第二章:ク・クラックスと不動産屋さん、どこがおんなじ
第三章:ヤクの売人はどうしてママと住んでいるの
第四章:犯罪者はみんなどこに消えた
第五章:完璧な子育てとは
第六章:完璧な子育てその2
終章:ハーバードへ続く2つの道
オマケ:ヤバい経済学 増補改訂版での追加
ざっくりと、各章の概要をご紹介します。最後に、第一章だけ、少し深掘りします。
第一章:学校の先生と相撲の力士、どこがおんなじ
インセンティブについては、この章が最もわかりやすいと思います。
アメリカでは、学校の先生は生徒の成績で評価されます。評価される。ということは、インセンティブがある。ということです。
相撲の力士も同様で、勝負事なので、当然インセンティブがあります。
では、力士が最もインセンティブを感じる時はいつでしょうか?詳しくは後半で。
第二章:ク・クラックスと不動産屋さん、どこがおんなじ
ク・クラックスとは、白人至上主義の組織です。それと、不動産屋。何が同じでしょうか?
答えは、情報の非対称性を利用していること。
情報の非対称性も、経済学で良く出て来る単語で、両者の情報量が違うこと。を示します。
例えば、中古車が良い事例です。
・中古車屋:車の修復歴やオーナー。傷み具合がわかる
・買い手:車の年式や外観、走行距離などしかわからない。
中古車屋は、車の情報をたくさん持っています。一方、買い手はほとんど情報がありません。この状態を、情報の非対称性。と呼びます。
この、持っている情報の違いを活かしているのが、ク・クラックスと不動産屋です。
第三章:ヤクの売人はどうしてママと住んでいるの
売人と言えば、悪いことをして稼いでいる集団に見えます。しかし、実際は家族(ママ)と同居しています。
なぜなら、売人も企業と同じようにヒエラルキーがあるからです。
あるヤクの組織の帳簿を基に、売人も企業もヒエラルキーがある事。その実態について知れます。
第四章:犯罪者はみんなどこに消えた
アメリカの犯罪者の数は1990年代のはじめに、ほぼピークとなり、その後減少しました。
あらゆる犯罪学者が「犯罪は止まらない」と決めつけていたのに。
犯罪率低下の理由は、経済学と数学を使えば明らかになります。
・一般的に言われている、犯罪抑制効果
・数字が導き出した犯罪抑制効果
この2つの違いに驚かされます。
個人的には、以前別の本で読んだ「ニューヨークの劇的な犯罪抑制案」が実はあまり効果が無かった。というのに驚きました。
※ニューヨークは割れ窓理論(小さな犯罪が大きな犯罪を生む)を利用して、犯罪率を下げた。と言われています。
第五章:完璧な子育てとは
子育てをしたことがある人なら、みんなわかると思いますが、子育て理論は無数にあります。
そして、互いに違うことを言っていることもあります。
以前、このエントリーでご紹介した「子供に本を読んでもらう方法」でも紹介したような内容が、この章では書かれています。
・子供の性格に親が与える影響は少ない
・大切なのは、周りの人間関係
第六章:完璧な子育てその2
第六章の続きです。
まだまだ、子育て関係についてはわかっていないことも多いです。
しかし、経済学と数学で導いた答えは「個人の体験談」よりは、よっぽど信頼できるかな。と思います。
終章:ハーバードへ続く2つの道
ヤバい経済学の振り返り。
オマケ:ヤバい経済学 増補改訂版での追加
・ヤバい経済学という本が発行されるまで
・ヤバい経済学発売後の状況
・その他、作者のブログ記事など
個人的には、あえて読まなくても良い気もします。私は、第六章まで読めば充分だと思いました。
第一章の力士のインセンティブを深堀り
最後に、ヤバい経済学第一章の「力士のインセンティブ」について深堀りします。
インセンティブとは、先ほども触れたように「誘因」であり、何かの行動を起こす理由です。
では、力士が最も「八百長のインセンティブ」を持つ時はいつでしょうか?
実際、勝敗を分け合うので、八百長をしても意味が無い場合の方が多いのはご想像の通り。
力士に最も八百長インセンティブがかかるのはいつ?
八百長をするのは当然悪いことです。誰でも知っています。
ですが、そんな「ずる」をしたくなるのは、どんな時でしょう?
答えはシンプルで、千秋楽で7勝7敗の時です。
・千秋楽:最終日
・7勝7敗:勝ち越しかどうかの分かれ道
8つ目の勝ち星は、通常の勝ちの4倍の価値があるとも言われています。
もし、8勝6敗の力士と7勝7敗の力士が対戦したら、結果はどうなるでしょうか?
・7勝7敗の力士が勝つ期待値:48.7%
・7勝7敗の力士が勝った確率:79.6%
八百長が起きやすい(インセンティブが最も高い)対戦に絞り、勝敗を見ることで、経済学的には、八百長が起こっているかどうか、予測ができます。
八百長自体は残念なことですが、インセンティブの観点から考えば、わからなくはない判断。合理的ではあります。
誰しも、倫理観を持っていますし、プロは特にそうでしょう。しかし、それでも、結果が欲しい。そんな時は誰にでもあるのかもしれません。
インセンティブの力は強力
この事例でわかるのは、インセンティブという力が非常に強い。ということです。
ずるの科学では、SMRC(Simple Model of Rational Crime)という考え方があります。(シンプルな合理的犯罪モデル)
このモデルでは、人は「リスク」と「利益」を天秤にかけて、ずる(犯罪)をするかどうか。を判断します。
この2つを比較して、リスクよりもメリットの方が大きければ、人はずるをしやすいです。
インセンティブ(メリット)が大きければ大きいほど、人の行動が変わる。そんなことが、第一章でわかります。
もちろん、これ以外にも倫理性や主義などもあるので、当てはまらない場合も多いです。(誰もいない交差点、赤信号なら止まりますよね?それと同じです。)
※ずるについては「ずる」がおすすめ。
「ヤバい経済学 書評」インセンティブの魔力を痛感出来る「まとめ」
今回は、ヤバい経済学の書評でした。
2007年に初版が出てから、いまでも現役で売れている本です。
当たり前ですが、長く売れている本は、やはり名著が多い。というのが率直な感想です。
もし、インセンティブという概念を、これまであまり意識していないなら、ヤバい経済学は目からうろこが落ちるような本になると思います。
経済学の面白いところだけ集めた本。読む価値アリです。